スピリチュアルな姉が気になるお店とは。

姉はスピリチュアルオタクだ。
部屋には不思議なモノがたくさん置いてある。

玄関に盛り塩は当たり前。

その他にも、邪気を払うクリスタルの飾り。

悪縁を絶ってくれる火打ち石。

幸せになる波動を放つらしい音叉。

樹齢1,000年以上の屋久杉ブレスレット。

最近では、風呂の中で、龍神のなぞり絵なるものを書くのが習慣化されている。

そんな姉、イチオシのスピリチュアル本がある。

「アナスタシア」だ。
ロシア作家による本。
都会に暮らす富豪の男性が、森に住む不思議な美女アナスタシアと遭遇し、自然の力や直感で生きていく力を学んでいく様子を描いた物語である。

1巻を読ませてもらったが、内容が正しいかどうかは知らないが、物語として面白い。
本に描かれる自然と調和した暮らしも興味深い。

熊をベッドにしてしまうシーンがある。
メルヘン好きな会長は、たまらなくワクワクしてしまう。

姉はAmazonでアナスタシアシリーズを購入している。
が、とあるサイトで、その本が売っている居酒屋があるという情報を姉は仕入れたらしい。

一体どんな店なんだ。

ということで、姉妹揃って、品川「とまとの部屋」に向かうことにした。

高輪口から歩いて数分。
看板が見えて来た。




どう見ても、中年サラリーマンが集いそうな雰囲気の居酒屋だ。
本当にこんなところにスピリチュアル本が置いてあるのだろうか。

店内では、常連さんと思しきサラリーマン達がボトルキープしてあるお酒で飲み会を楽しんでいる。

席に着く。
メニューには美味しそうなご飯がずらり。

本よりも何よりも姉妹二人、お腹が減っている。

というわけで、気の赴くままに、狂ったように注文した。

トマトのイヤリングがお似合いの可愛いママ。
店に入るなり注文する姉を見て「早すぎる、あせりすぎよー」などと諌められていた。

初めての店であったが、気さくなママで姉妹二人ホッとする。

お通しにはミニお好み焼きとオクラ。

どちらもいいお味。
ビールに合う。

二人だったこともあり、5分くらいで瓶ビールは果てた。

お次は、日本酒。
八海山を注文。

と、「大人女子のポテトサラダ」がやってくる。

ポテトサラダに乗っかるピンク色の正体は明太子。
クラッカーに乗っけて食べても、美味しい。

なお、掲載されている写メが食べかけなのは、テーブルに届くなり食べ物に手を出す姉のスピードが速すぎて、写メる前にはもう食べ始めてしまっているからである。
あしからず・・・・・・。

その後来た「トマトのチーズ焼き」と「とまと徳製サラダ」。

サラダを掘り起こすと、唐揚げが入っていて喜びいっぱいだ。

あえて「特製」ではなく、「徳製」としているのも頷ける。

お腹が満たされてきた二人。
このお店にお邪魔した本来の目的を思い出す。

どう見ても、本売ってるようなお店ではないよなあ。

と、気さくなイケメンマスターが近づいてくる。
「うちの料理うまい?」

「はい、とっても」
笑顔で答える姉と会長。

「でしょ、うち元々弁当屋やってたからね」

なるほどー。
だから白いご飯にも合いそうなお料理なんだな。

今がチャンスとばかりに尋ねる姉。
「あの、変なこと聞くのですが・・・・・・こちらにアナスタシアって本って売ってますか?」

不思議そうな顔をするマスター。
「アナスタシア?うーん・・・・・・知らないなあ。本?あ、本ってあれかな」

五人組のお客さんのテーブルに向かうマスター。

「あったあった、これだ」

びっくりしたことに、普通にお客さんの席の後ろに本がお店に置いてあった。
まるで飾り物のように。
姉の席からは死角となって見えなかったのだ。

「あったー、これだあ」
喜ぶ姉。

「義理の娘が、この本オススメしていて店に置いていったんだよね。でも、俺らは全く読んでいない」
笑いながら説明してくれるマスター。

「え、そしたら、こちら買わせていただいてもいいですか?」と、笑顔でお願いする姉。

少しびっくりしつつも、
「あ、いいんじゃない。きっとお客さんに広めるつもりで置いてった本だと思うから。いいよ」
と優しく快諾してくれるママ。

無事、まだ入手できていなかったアナスタシアシリーズと対面して喜ぶ姉。

マスターが隣の常連さんと思しきお客さんに、笑顔で声をかける。
「この本欲しさにうちに来てくれたんだってさ」

「へえー、本なんか置いてあったんか」
関西弁のおじさまだ。大阪ご出身らしい。

「あれやね、姉妹で来てたんやね。いいねえ、仲良くて。僕はね、今日はフレッシュマンときたんよ」
と、その隣にいる若い男性を紹介してくれる。

まだ入社して1年目の彼。
一人で歩いて帰っているところを見つけた上司のおじさまが、飲みに連れて言ってくれたそうな。
優しいおじさまだ。

「スピリチュアルに興味あるんやね。明後日は満月やしね」

「え、そうなんですか」
反応する姉。

スピリチュアル界隈だと、「満月」や「新月」に神秘的なパワーが宿ると言われている。

おじさまのテーブルに美味しそうな出汁巻卵がやってくる。
思わず「美味しそう」と呟く会長。
ふわふわで量も多くて、鮮やかな黄色がたまらない雰囲気を醸し出していたのだ。

おじさま、
「ええで、もらってって」
と、シェアしてくれることに。

わーい。
お言葉に甘えてありがたく頂戴することに。

そして、こちらのテーブルには「どんぶり茶わんむし」がやってくる。
かなりのボリューム。

そっとおじさまの方に目をやる。
「よろしければ、いかかですか?」

「ありがとう。その言葉、実は待ってたんよ」

卵料理をお互いシェアして、和気藹々なテーブルに。

途中、常連さんと思しきお姉さまもやってくる。
姉は、その方とも色々とお話をするととなり、空気が華やぐ。

満月の直前に卵料理が作るご縁って、なんだかスピリチュアルだ。
アナスタシア効果かもしれないな。

などと酔った頭で適当なことを考える会長。

最後にやってきたお料理は「懐かしのナポリタン」。
ケチャップたっぷりで、子供も喜びそうな美味しさだ。

アナスタシア抜きにしても、きて良かったと思うお店である。

ママには「だいじょうぶ、食べれるー?」と心配されてしまうくらい、注文していた姉妹だが、全て平らげた。

お腹も心も満たされた日になった。

が、後日談がある。
とある朝、姉があることに気づく。

「てか、あのおっちゃん、適当だなあ。全然、満月まだじゃん」

「え」

なんと、満月トークは関西ジョークであったらしいことに気づいたのは数日後のことなのであった。

隠れ家居酒屋 とまとの部屋
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