店を通れば、おかえりなさい。

新井薬師駅の酒屋「味のマチダヤ」にて酒を、しこたま入手した帰り道。
中野駅に寄り道することにした。

道中、懐かしみながら、中野区立図書館にも足を運ぶ。
数年前と中の様子は変わらない。

中野に住んでいたことがある。
暇な休日があれば、足繁く、こちらの図書館に通っていた。

比較的広い図書館。
たくさんの机がある。
ここで日記を書いたり、本を読んだりするのが好きだったのだ。
その帰りには、ちょっと飲んで帰るのが楽しみの一つでもあった。

そんな日々を思い出しつつ、この日も、一人飲みに行くことに。

向かったのは、数年前に数回、行ったことがあるスタンディングバル「松五郎」。

お店はガラス張りで、常にドアはオープンした状態だ。
そんなこともあり、中の様子がよく見える。

店内には、お店のお姉さんがお一人。
明るく、迎え入れてくれた。

1杯目はギネスビールを注文。

お店のお姉さんが、カウンターに何やら、機械を設置している。
と、その上に、ギネスビールのグラスを置く。

どういう仕組みなのだろうか、ギネスビールの泡がキレイに現れてきた。

おお。

「これ、お客さんからもらった機械なんですよー。すごいですよね」
と、説明してくれるお姉さん。

と、会長越しにお客さんが見えたよう。
すかさず、お姉さんが大きな声で叫ぶ。

「おかえりなさーい!今、ハッピーアワーなのでお安いですよー」

ん、なんだろう、この感じ。
懐かしい。

そうだ、数年前に来た時も、店の前を通るお客さんを見るたびに「お帰りなさい」と呼びかけるお店だった気がする。

そうか、以前もこちらのお姉さんがお店をやっていたわぁ。
ぼんやりしていた記憶が蘇る。

呼びかけられたのは、とても仲良さそうなカップルさん。

「あ、今からご飯行くとこだったんだけど、ちょっと寄って行くか」
と、気さくな感じで対応する彼氏さん。
常連さんらしい。

ぼんやり飲んでいると、彼女さんの方から声をかけられる。
「一人で飲みに行かれること、よくあるんですか?」

話しかけられたことで、真正面から顔を見たわけなのだが、めちゃくちゃ可愛い。
小柄で女の子らしいキレイな髪のボブ。
顔も声も可愛い。
照れつつ答える会長。

「そうなんですよ、お酒が好きで。実は以前、中野に住んでいて。その時はよく飲み歩いていましたね」

「へえ、いいなあ。一人で飲むと酔っちゃった時に大変になりそうで飲めないんですよねー。住んでいる周りにも、あまりお店ないし」

かくいう会長も、一人、へべれけになるまで飲んでいたりするので、最近は水をこまめに飲みつつ、気をつけるようにしたりはする。

彼女さんは、江戸川区の方にお住まいらしく、この日は彼氏さんのとこに遊びにいらしたようだ。

そんな会話をゆるゆるしていると、またもや、明るいお姉さんが声をかける。
「あ、おかえりなさーい、先生!」

ん、先生?

入店したのは初老の優しそうなおじさま。
「今日は、ワイン持ってきたよー」
ゆっくりした喋り方、穏やかな声のトーン。

そして、持ってきたワインを、おすそ分けしてくれるおじさま。
行動までも、優しい。

注文していたアヒージョも来て、美味しくいただく。

と、またもや、お姉さん、「おかえりなさーい」と呼びかける。
今度は、パパと幼稚園生と思しき男の子だ。

たまに、親子揃って遊びに来てくれるお客さんなのだそうな。

幼稚園生の時から、立ち飲みの経験をできるとは。
かっこいい。

おや。
隣では、先生がせっせと折り紙を折っている。
どうやら、男の子にあげようとしていたらしい。

が、折終わる前に、パパと男の子はご自宅へと戻られてしまった。

「ああ、間に合わなかったかあ」
と残念そうにする先生。

「すごいですね、何を作ろうとしていたんですか?」

先生に尋ねる。

「今、作ろうとしていたのはね、蝶々。これは比較的早く作れる折り紙なんだよ。はい、できた。あげるね」

おお、折り紙をいただいたのは、小学生ぶりかもしれない。

「ありがとうございます。すごいですね、鶴さえ今折れるか怪しいのに・・・・・・」

「他にもパンダもあるんだよ」と店内に飾られていたものを見せてくれる。

先生は常に折り紙を持ち歩いていて、ちょっとした時に人にプレゼントしてあげているのだろう。
そんな心配りに、ほっこり。

先生はもともと、小学校の先生であったことを知る。
現役時代は、あまり飲みに行く時間を取れなかったらしい。

今は引退されて、中野駅界隈をちょくちょく飲みに行く時間ができたそうな。

きっと、日々、充実しているんだろうなあ。

左には可愛らしい若いカップル、右にはご隠居された優しいおじさま。

ちょうど、その中間にいるアラサーの会長。

人生いろいろだよなあ。

と、最後に1杯、ロックの日本酒をいただき、心地よい余韻を反芻しながら店を後にした。

松五郎
〒164-0001
東京都中野区中野2-27-13

「小さい頃の宝物は、キラキラの折り紙と和紙でした」