あたたかくて、ほっとして懐かしい。

とある日の土曜の休日。
浜松町駅周辺の夜のお散歩をしてみた。

休日のオフィス街は、閑散としている。
が、この都心を借り切っている気分になれるのが好きだったりもする。

道端に、何やら主張してくる立看板を見つける。

「60’s〜80’sの懐かCM、TV、音楽などの映像が流れているのんびりした空間でお酒をお楽しみください」とのこと。

どういうこと?

若干の混乱と、沸き起こる好奇心から、ひとまず、店の前まで足を運ぶことに。
一見すると、普通のバーである。

よし、行ってみよう。
「こんばんはー」
恐る恐る、入る。

店内も普通におしゃれなバーだ。

土曜だからか、お客さんは会長一人。

あ。

スクリーンに目をやれば、確かに、昭和感ぷんぷんの映像が流れている。
会長も昭和生まれではあるものの、知らない映像が多い。
きっと生まれる前のものであろう。

まずは、カクテルとレバーパテを注文。

メニューにあるのは、軽いおつまみと、豊富な種類のお酒。
そして、面白いのが、まるで雑誌みたいな作りのメニューなのだ。
マスターは元々デザインのお仕事をしていたらしい。

気さくな感じのマスターに声をかけられる。
「うちには、どうして来られたんですか?」

「あ、看板に惹かれて。気まぐれ営業っていうのも気になりました」

「ああー土曜のお客さんは、結構、看板見てきてくれる人多いんですよね。でも、平日とは違って、新しい方が来てくれたりするから、面白かったりするんですよ」

ほお。
平日であると、20時以降は満席状態になってしまうこともしばしば。
お客さんの年齢層は、50代前後が多いそう。

「若い子だと、普通のバーと勘違いしてくる人もいてね。こんな映像流れているもんだから、ポカンとするお客さんもいますよ」

そうなんだ。
確かに、看板をよく見ていなければ、若い人もいそうなバーだものな。

と、知っている映像が流れて来た。
「金八先生」である。

「あ、これはさすがに知ってます」
思わず、声を発していた。

「そうでしょうー、でも、『新八先生』、『仙八先生』は知らないでしょう?」

え、何それ?
いかにも、金八先生に乗っかってしまった感じのタイトル。

「実際、乗っかってるドラマですよ。新たなスピンオフ作品だから、『新八先生』。仙台出身の主人公であるスピンオフ作品だから、『仙八先生』。ちなみに、『金八先生』は金曜8時からのドラマだから」

何その安直なネーミング。
昭和だと、そんなゆるい感じでも許されてたのか。

爆笑してしまった。

「でしょうー。昭和って何でもありだからね。『危ない刑事』なんて、爆竹使いまくってたけど、そんな刑事、実際はいないからねー」

ゆるゆると説明してくれるマスター。
と、知っている曲が流れてきた。

チャン チャン チャーン♪
チャッチャッチャ、チャッチャラチャッチャッチャーン♪

YMOの「RYDEEN」だ。

「わあ、今見ても聴いても、かっこいいですねー」
と、うっとりする会長。

「ね。テクノミュージックの元祖だからね」

へええ。
そんなに功績のある曲だったとは。
すごい。

「あ、ちなみに、このシンセサイザー弾いてる女性。矢野顕子ね」

若いっ。
そして、意外と素朴な感じのする可愛らしい少女だ。

映像が出るたびに、マスターの昭和時代の小話があるため、いつまでいても飽きない。

そんな中、放送の規制が強化されていきつつあるよね、という話に。
確かに、会長が小さい頃は、バカ殿とかで女性の裸体とか普通に見れたような。今のテレビじゃありえない映像であろう。

それが良いか悪いかは置いときつつ、作り手が規制に萎縮してしまって、自由な発想も縮こまってしまうとしたら、なんだか少し寂しい気もする。

新年特番の胸ポロリとか面白かったのに。

なんて、昭和話に盛り上がっていたら、軽く一杯のつもりが、もうだいぶ良い時間。

マスターが体感した時代を疑似体験できる空間。
昭和の良さを知る、素敵な夜になったのであった。

bar nosta
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